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硝子の羽根の欠片

なのはに最近熱を入れている二次創作SSサイト。
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カプ表記は「フェイト×はやて」





「ありがとう」


 そう言ったはやては笑ってくれているけど、どこか力ない、戸惑っているような印象を受けた。


「……なにが?」
 意地悪だなと自分にあきれつつ、私はわざとはやてのありがとうにそう返していた。
「え?」
 まったく想定外だったのだろう。
 はやては私の言葉に目を見開いてまばたきを繰り返す。
「なにがって……?」
「だから、なにが『ありがとう』なの?」
 呆けたような、感情が漂白されたような様子で、確かめたはやて。
 ゆっくりと、聞き逃されることのないように質問に答える。
 その音がはやての中ですとんと落ちた瞬間、口をきつく結んで息を飲み込んだみたいだった。

「なにがって……えと、いろいろ?」
「だから、そのいろいろってなに?」
 途端に落ち着きなく目を彷徨わせるはやての様子は、普段のはやての様子とは違ってとても華奢に映る。
 両手を胸のあたりで組むように握って、落ち着きなく指を指で揉んでいる。
 俯いた顔は私からは死角になってしまって表情をうかがうことが出来ない。
「そ……の……、かっ、かわいい……って言ってくれてありがとう……とか」
「とか?」
 あぁ、本当に私は意地悪だね。
 悪びれる素振りもみせず、はやてが困るのをわかっているのに、わざと追求している。
 必死に途切れ途切れの音をつないで、力なく揺れ動く声を出してくれたその様子がどういう状態を示しているのか、わからないわけじゃないのに。
「……いつも一緒におってくれて、ありがとうとか」
「とか?」
 はやての体がわずかに揺れる。
 また追求するとは思わなかった? それとも予想通りで腹立たしい?
「すっ……好きって……言うてくれて、ありがとう……」
 そばにいても、聞こえるか聞こえないかくらい、すごくすごく小さな声。
 それはきっと顔から耳まで羞恥に染め上げて、やっとの思いでひねり出されただろう言葉。

 だけどごめんね。
 その言葉で、その様子では、……まだ終わらせてあげられない。


「ねぇ、はやて。それってさ……」
 揺れる柔らかい茶色の髪を、一房手の平ですくう。
 肌触りのいいそれを、親指で少し撫でて君との距離を少し詰める。
「私ははやてに振られたってこと?」

 たっぷり五秒の間を置いて、俯いたままだったはやてが勢いよく顔を上げる。
 その目が驚きに揺れているのは、ごめんね、気づかないフリをするよ。
「だってそうでしょう? 好きって言ったのに、さ。返事がありがとうだけなんて」
「ちゃう!」
 思いがけなく飛んできた鋭い否定。
 驚きに満ちた、信じられないものを見るような表情。
 泣きそうな目。
「ちっ、違う……、そうやない、……そうや、なくて……」
 落ち着きを失って、すがるように自分の前髪をわしづかみにする。

「うん」
 はやての背中に手を回して、緩く抱きしめる。
「ごめんね、本当はわかってるんだ」
 いたわるように、慈しむように。決して、それは求めるためのものではなく。
「はやてがちゃんと私のことを思っていてくれるってことは」
 わかってないわけがない。だってもう長い付き合いになるのだから。
 ずっとはやてのことを見てきたのだから。

「局内で偶然すれ違ったり、長期航行から帰れる日を連絡したときにすごく嬉しそうな顔をしてくれるとか。
 はやてだってすごく忙しいのに、私が長期航行から帰ってくる日はできるだけ時間を作って会いに来てくれるとか。
 たまの二人でゆっくり過ごせる日の食事に私の好物をたくさん作ってくれるとか。
 はやてが本当にまいったときに、私にだけ甘えてくれるとか。
 会えない日でもメールは必ず返事をくれるとか。
 いきなりキスしても嫌がらないでくれるとか。
 エッチしてるときに強く抱きついてきてくれるとか……いたっ」
 ひとつひとつを思い出しながら挙げていたら、不意の痛み。
 いつしか私の肩に頭をのせていたはやてが、私の胸を叩いていた。
「……言ってくれなきゃ嫌だっていうつもりはないんだ。言わなきゃいけないことだと思っているわけじゃないし。そういうのって、やっぱり人それぞれだと思うから」
 ゆっくりとはやてが真っ赤なままの顔をあげ、じろっと責めるような目で見上げてくる。
「でもね、たまになんだけどね、言葉にしてほしくなるときがあるんだ。ちゃんと行動や態度で伝わってきているんだよ? だから、いつも言わなきゃなんてことはない。私は言いたいから言ってるけどね」
 そこは人それぞれの範疇だと思うから、押しつけようだなんて思わない。
「だからこれは私からのお願いなんだけどね、はやてが私をどう思ってるかを聞かせて?」
 どうか、言葉をください。××って。
 いつも惜しみない行動と態度をくれる君に、そんな要求は罪深いだろうか。



「す……き、やで? ……フェイトちゃんの、こと」


 背伸びして、私の耳に唇を寄せて吐息に押しつぶされそうなくらいささやかな声音。

 たった一言で、私をここまで嬉しくさせるのは君だけ。


 慈しみから愛しさへ、包むより求めるために、強く強く抱きしめる。
 その、まだ赤みが抜けきらない耳に私も唇を寄せよう。


「私も好きだよ、はやて」


END




恋人同士なのに照れが上回って、なかなか好きって言えないはやてさんはかわいいだろうなと思ったらこんなものになりました。
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