お題消化、ラストー。なのフェイです。
どういうお題だったかは作品の後に反転で書いてあります。
……お題一通り終わったし、そろそろ世間のしれいの流れにのるべき??
教室に二人きり残っているだけなのに、目の前にいるフェイトちゃんがいつもと違うように見える。
どうしてだろう。
何度だって見ているのに、フェイトちゃんの顔の綺麗さに、思わず息を飲んでしまった。
「なのは……」
フェイトちゃんがわたしの名前を呼んでくれるのも、いつものことなのに。
わたしはフェイトちゃんの目を真っ直ぐ見れなくて、フェイトちゃんの肩のあたりへ視線を逃がした。
視線は逃げたのに、さっきまで見ていたフェイトちゃんの顔がちらつく。
金の髪が窓から差し込む光を反射してきらめいて。
それに負けないくらいに整った顔立ちが、わたしへと笑顔を見せてくれる。
胸がいま、大きく脈打った。
「なのは、こっち向いて……?」
フェイトちゃんの声が、ちょっと悲しさの色を持っているみたいで。
わたしは何故か自分が泣きそうになりながら、フェイトちゃんの顔へと改めて顔を向けた。
ほんの少しだけ、安堵が混ざる紅。
その瞳に、いつだって見とれてしまう。
「どうして、私の方を見てくれないの?」
それは問い詰めるのでもなく、怒っているのでもなく、ただ純粋に不思議だという疑問の声。
「えと、……その」
どう、言ったらいいんだろう。
わたしは、どう言いたいんだろう。
そもそも、どうしてフェイトちゃんを直視できないかを、わたしはフェイトちゃんに知られたいのかな。知られたくないのかな。
フェイトちゃんは、わたしが直視できない理由を知ったら、どう思うのかな。
「なのは」
あぁ、ずるい。
フェイトちゃんの『なのは』はずるいよ。
他の人に名前を呼ばれたって、こんな風には思わない。
お母さんやお父さん、お兄ちゃんにお姉ちゃん、はやてちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん……。
どうしてなのかな。
フェイトちゃんに『なのは』って呼ばれたら、それだけでわたしは他のことなんてどうでもよくなっちゃうんだ。
名前を、呼んでくれただけなのに。
ううん、違うよね。
フェイトちゃんが、名前を呼んでくれたから、わたしは他のことなんてどうでもよくなっちゃうんだ。
「おしえて?」
小さく首を傾けて、わたしを窺うその目がまたずるい。
だって、そんな風に言われちゃったら、フェイトちゃんに言われちゃったら、わたしは教えなきゃいけなくなっちゃうんだから。
「わらわ……ない?」
「笑わないよ」
わたしの言葉を、真剣な眼差しで受け止めてくれる。
どうか本当に、笑わないでください。
わたしのこの気持ちを。
「なんでか……ね。急になんだけど、フェイトちゃんがいつも違ってみえてね」
わたしの拙い、途切れ途切れの言葉を、フェイトちゃんはひとつひとつ丁寧に頷いて、聞き続けてくれた。
「すっごく綺麗に見えて、まぶしくって……胸がドキドキして」
あぁ、顔が赤くなっていってるのが、自分でわかるよぅ。
「フェイトちゃんを真っ直ぐ見れないの……」
もう全部白状しちゃったから。
どうか顔を逸らすことを許してください。
この、哀れな子羊を。
わたしは言い切って、フェイトちゃんから顔を背けた。
「それで……全部?」
「全部、だよ」
そっか、と小さくフェイトちゃんが言った声がした瞬間。
わたしの顎がつかまれて、目の前にフェイトちゃんの顔があった。
「あぅ、フェイトちゃぁん……」
ひどいよぅ。真っ直ぐ見れないって、言ったじゃない。
わたしの顔をフェイトちゃんが動かすなんて、ずるい。
「なのは、もうひとつおしえて? それって、私のことが好きだから?」
うっ、もう、フェイトちゃんのバカっ!
「そうだよっ」
ここまできたらやけくそだった。
知ってるじゃない、わたしがフェイトちゃんのことが好きで好きで大好きだってこと!
「私も、だよ。私もなのはのことが好きで、なのはと二人きりだとドキドキして、なのはのことを見てられなくて」
「フェイトちゃん……?」
いまになって気づいた。
そうやって話してくれているフェイトちゃんの頬が、ちょっと赤くなってること。
もしかして、フェイトちゃんも本当に、わたしと同じ……?
「でもごめんね。意地悪じゃないんだよ、なのはにはこっちを向いていてもらわないと」
なにを謝ったのかと思ったら、そうか、わたしの顔をフェイトちゃんの方へ向けさせたこと。
「なのは……」
また、フェイトちゃんがわたしの名前を呼ぶ。
いつの間にか、わたしの顎にフェイトちゃんの手はなく、両肩にのせられていて。
いつもちょっとだけ上にあるフェイトちゃんの顔が、徐々にわたしに近づいてくる。
こ、これはまさか……。
緊張と期待が複雑に混ざり合ったまま、わたしはそっと目を閉じた。
そっと唇に触れる、柔らかい感触。
もうさっきまでうるさくて仕方なかった鼓動なんて、聞こえなくなっていた。
「はれ?」
目の前には、白。
なんだろう、なんだか見覚えがある気がするんだけど……フェイトちゃんは? 教室は?
耳をうるさく刺激するのは、同じく覚えのある音。
わたしは無意識に手を頭の上へと伸ばして、スイッチを押す。
先ほどまでうるさく響いていたベルのような音は、一瞬で消えた。
≪おはようございます、マスター≫
機械的な英語が聞こえてきて、その音の方へと顔を向ける。
見慣れた机にある敷布の上に、赤く光る丸い玉があった。
あぁ、そうか。
朝なんだ……。
この瞬間、わたしは不幸にも全てを理解してしまった。
これはもう、しょうがない。
≪マスタ−? どうなされましたか。朝ですよ≫
うん、わかってるよ。だけどわかりたくないんだ。
わたしがいるのは家の自分の部屋で。
フェイトちゃんはここにはいなくて。
そもそもフェイトちゃんとは付き合ってもいなくて。
キスだってもちろんしたことがなくて。
フェイトちゃんに好きって言うこともできなくて。
さっきまでのが全部夢で。
いつもセットしている目覚ましにそれを破られたってこと。
≪起きられないのですか? 今朝も早朝訓練の予定では?≫
ごめん、レイジングハート。
いまのわたしには訓練にいそしむよりも、もっともっと大事なことがあるんだよ。
わたしは自分の肩あたりまでかかってる布団を頭より上まで引き上げて、体をすっぽり埋めてしまう。
「ぜったい、あの夢の続きを見るんだっ!」
決意を胸に、わたしはいままでやったことがあるかないかくらいの二度寝へと旅立とうとした。
≪マスタ−!? 起きてください!≫
END
元になったお題→
なのフェイで初めてのキス
加えてリクエスト主の好みから中学生というオプションをつけたのですが、書き上げてみたら中学生だと思える記述はどこにも出てなかった。
ま、まぁお題はクリアしてるし!