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硝子の羽根の欠片

なのはに最近熱を入れている二次創作SSサイト。
オタクとか百合とかに興味がない方は見ない方が吉。
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そばにいなくてもまるで近くにいるみたいに、その存在がどこかで支えになっている。というお話。

なのはだし、更新再開記念だし……と思ってなのフェイにしてみました。
書いていたら半分くらいでなのはが一切出てこない話になってることに気づきました。
でも他に思いつかなかったのでそれで書き上げたという……。
一応カプ表記としては「なのは×フェイト」のつもりです。




 えぐっ……えぐっ……

 少年は一人、人目につかない草原の片隅で泣いていた。

 広い草原だった。
 近くには日に一度、ミルクや食品を配達しに町の人が車で通るくらいにしか使われない、舗装されていない道があるくらい。
 少年の足ではかなり時間をかけねば着けないだろう距離に、少年を始めとする少年少女たちが住まう共同施設がある。
 逆を言えば、施設の先生でもなければ少年を見つけることなどないのだ。
 少年と一緒に暮らしている者たちでは、他に。


 どうして泣きたくなったのか、少年はわからなかった。
 なにか嫌なことがあったのかもしれないし、悲しいことがあったのかもしれない。
 けれど少年はそれを理解するには、まだ精神が成熟していなかった。

 ただなんとなく、同じ施設に暮らしているみんなには泣いているところを見られたくなかった。
 いつもみんなのリーダー気取りの年上の少年なんか、見つけたら思い切りからかって何度も何度もこのことをバカにするんだろうと思った。
 一緒にいる少女たちは笑わないかもしれないけれど、泣き虫だと思われるかもしれない。

 なにより、男の子だから。
 人前で泣くのは“かっこわるいこと”なんだって、そう思っていたから。



 隠れているつもりでいるから、大きな声を出す勇気もなくて。
 ただ息苦しさを織り交ぜながら頬を濡らすくらいしか満足に出来なかった。

「我慢しなくていいんだよ。もっと声、出してごらん」
 不意に下りてきた声に、少年は見つかったと思って、体を震わせながら後ろを振り返る。


 そこにいたのは、リーダー気取りの子でも、女の子でもなく、施設の先生でもなかった。
 振り返った青い大空の中、金の髪をなびかせる女性。
 時折この施設を訪れてみんなと遊んでくれる、みんなが大好きな人。
 もちろん少年だって大好きなお姉さんだった。

「ふぇいとさぁん……」

 誰にも見られたくなかったのに。人前じゃいけないんだって思っていたのに。
 ふぇいとさんの姿を見たら、思わずしがみついて大きな声をあげて泣いてしまった。



 少年の涙が止まって呼吸が落ち着くまで、ふぇいとさんは少年の背中を撫でてくれた。

「あのね、ぼくが泣いていたの、ないしょにしてくれる?」
「どうして?」
 泣き止んだ少年の言葉に、ふぇいとさんはからかうのでもなく、怒るのでもなく、ただ不思議そうに聞いた。
「笑われたり、弱虫って思われたりするから。それに、男の子が泣くのってかっこわるいって」
「そっか。じゃあ内緒、だね」
 ふぇいとさんは口に人差し指をあてて、内緒にしてくれるって言ってくれた。


「どうして泣いていたの?」
「わからないんだ」
「わからない……?」
「なんだか、急に泣きたくてしょうがなくなったんだ」
 少年はうつむき、黙ってしまう。どう言ったらいいのか、少年自身わからないのだ。
「ふぇいとさんは、急に泣きたくなっちゃうことってある?」
「あるよ。私の場合は、寂しかったり、悲しかったり……そういうことがたくさんになって、急に泣きたくなる」
「さみしかったり、かなしかったり……」

 ふたりのそば間を、涼しい風が通り抜ける。
 少年は自分の頬が冷たくなくて、もう乾いていたことに気づいた。

「それじゃ、特別に魔法、教えてあげようか」
「まほう?」
「しんどくなったり、泣きたくなったり、たくさんがんばりたいときにする魔法」
「それってどんなの? むずかしい?」
 少年は強くなりたかった。
 しんどさを感じない、簡単にはなかない、いっぱい強い、そんな人に。
 だからふぇいとさんのまほうは、すごく興味があった。
「ううん、簡単だよ。あのね、大切な人の名前をつぶやくの」
「大切な人?」
「うん、大切な人。特別な人、かな」
「……ぼく、とくべつなひとっていないよ」

 少し考えてみたけれど、少年には特別と思えるような人がいなかった。
 いつの間にかこの施設で暮らすようになっていた。
 それより前のことは少しは覚えていたけれど、最近では思い出せない。
 施設の先生は好きだが、特別かどうかはよくわからない。
 リーダー気取りの子も、それ以外の子も、女の子も、少年にとっては同じくらいの気持ちで、特別ではないだろうと思う。

「特別な人ができるまではね、『神様』って言えばいいんだよ」
「かみさま……?」
「うん、神様。でも、特別な人ができたら、その人の名前にしてね」
「どうして? ずっとかみさまじゃダメなの?」
「ダメじゃないけどね、特別な人の名前だったら、神様よりもっと力になるから」

 心の中で、教えてもらった『かみさま』と呟いてみる。
 強くなったような気は全然しない。でも。
 うん、わるくない気がする。

「ふぇいとさんは、なんてつぶやくの?」
「じゃあ、フェイトさんがなんてつぶやくか、みんなには内緒にしてくれる? フェイトさん、恥ずかしいから」
「うん、いいよ。ぼくが泣いてたのないしょにしてくれるから、おそろいだね」
「うん、どっちもふたりだけの秘密だ」

 ふたりで笑いあった後、ふぇいとさんは教えてくれた。

「フェイトさんはね、『なのは』ってつぶやくんだ」
「なのは? それが、ふぇいとさんのとくべつなひと?」
「うん、そうだよ」
 そう言って笑ったふぇいとさんは、今まで見たことがないふぇいとさんだった。
 なにが違うのか、少年には言い表すことができなかった。でもなにか違う。
 そして、なんだかいつものふぇいとさんより、今のふぇいとさんの笑顔の方が、なんか、いい、感じがした。


「さて、そろそろ戻ろうか。園長先生のクッキーが焼き上がる頃だよ」
「クッキー! ぼく先生のクッキー大好き」
「それじゃ、帰らないとね」
「うん」


 ふぇいとさんと一緒に帰る道は、ひとりで来た道と同じはずなのに。
 お空がとても高くて、青くて、風がやさしくて、辺りの緑がきれいで。
 なんだかとても気持ちがよかった。


END
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