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硝子の羽根の欠片

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カミサマ<前編>の続きで後編を。
前編読んでからの方がよいかと思われます。変わらず「フェイト←はやて」
「フェイトさんとはやてさんで10のおだい」については、拡大解釈すれば(前後編あわせて)多分入ってます。
あと霧島さんはフェイはやで(表に出てないのも含めて)はやてさんが報われないものの方を多く書いてるので、そろそろフェイはや書くの自重すべきなんでしょうかね。






   カミサマ <後編>


 そして何故か手を引かれて、着いた先がわたしの家。
 一体どこでどうしてこんなことになったんだろう。

「はやての家に来るのもずいぶん久々な気がするよ」
 思わず現実逃避したくなりそうな状況やけど、すぐ隣で楽しそうに目を輝かせているフェイトちゃんがいるので、意識を飛ばしてしまうわけにはいかない。
 玄関の鍵を開けながら、口だけフェイトちゃんに合わせる。そんなにキラキラと楽しそうにされては、無下に追い返すわけにもいかない。
「そうやね、みんな最近は仕事で忙しいもんなぁ。そや、シグナムがまたフェイトちゃんと模擬戦したがってたで」
 話を合わせていれば、ふと思い出したのは我が家の一番好戦的でフェイトちゃんをライバル視している守護騎士のリーダー。
「そう言われれば確かにシグナムとの模擬戦もしばらくしてないな。というか、顔を合わせたのも1か月くらい前かも」
「シグナムが寂しがるでー。なんだかんだ言ってシグナムはフェイトちゃんがお気に入りやから」
 けらけらと、シグナムをダシに話してはいるけれど、本当は我が家で一番フェイトちゃんを気に入っているのはわたしや。フェイトちゃんが想像もしない意味で。
 シグナムやヴィータは知らんけど、シャマルは知っとるから、もしうっかり今日家にいたら余計な気を利かしてたかもしれない。
 そう、今日の我が家はみんな仕事で出払っていて、誰もいない。だからこそフェイトちゃんを招き入れることに抵抗があって、抵抗がない。
 ……下手にシャマルだけがおるとかやったら、かえって抵抗がある。
「ほな、どーぞ」
 鍵とドアを開けて、フェイトちゃんを促す。
「おじゃまします」
 フェイトちゃんが中に入り、後を追うようにわたしも中に入る。
 それが、放課後間もない曇り空の頃のこと。

 今夜は月が隠れてしまうんやろうか。



「いつの間にこんなになってるんや」
 呟きは誰へと宛てなく悪態として、かろうじて目の前にいるフェイトちゃんに届くことなくかき消えた。
 自分の部屋から見上げた空は、すっかり白い雲から黒い雲へ。そしてたまに……
「あ、光ったね」
 その発言が今のはやてさんには嫌味にしか聞こえへんでー。
 フラッシュのように瞬間的に空が光を放つ。それはわたしの嫌いなもので、わたしはびくりと体を震わせる。
 フェイトちゃんはそんなわたしの動きを、逐一見とがめては笑みを強くしている。
 アリサちゃんのノート写しとったんとちゃうん? まだ写さなかんページはあるはずやろ?
 上手く言って意識をノートに戻させられればええんやけど、もうフェイトちゃんはすっかりわたしの反応が面白いと思い始めてしもてる。
「天気崩れてるね。夜には収まるかな」
「ど、どやろな?」
 応える自分の声が震えているのが、露骨すぎて嫌でも怖がっているのがフェイトちゃんにはバレてしまっている。
 そもそも徐々に天気が悪化し出した時点で落ち着きなくそわそわし始めれば、フェイトちゃんでなくても気づくやろう。
 けれど、気持ちの上ではそういう問題とちゃうねん。いつもの仕事での平静なんか装えへん。
 地響きのような低い音が空から鳴り出せば、肩が大きく上下してしまった。
「ごめん。そんなに無理に気を張らなくていいよ。苦手なんでしょ、雷」
 くすくすと、ついには声をこぼしながら笑うフェイトちゃん。
「外を見なくていいし、耳も塞いでていいから」
 言いながら、フェイトちゃんはようやく写している途中だった手元のノートに視線を落とす。
 そんな軽くどうでもいいことみたいに言わんでもええやん。わたしにとったら、すごく大きなことなんやで?
 なのはちゃん相手やったら、最初からからかわへんのやろ? それに、さ……。
「あ、あんなに笑った後で言う台詞ちゃうやん……」
 思わず呟いてしまった本音で、ノートの写しを再開し出したフェイトちゃんの動きが止まったような気がした。
 頭を上げたフェイトちゃんの顔が、にじんでよく見えない。
「ごめん、はやて。本当にごめん」
 机を挟んだ向こうにいるはずのフェイトちゃんの声が、耳元で聞こえる……。
 耳元でフェイトちゃんの、本当に優しい声が響いて消える。
 あぁ、こんなに優しい声なら、消えないでずっと余韻が頭の中を回ってくれればええのに。こんな優しい声、わたしにはしてくれへんのやから。
 夢でええよ、夢でええから、今の声だけはわたしだけのものにしてもええかなぁ? なのはちゃんのものでなくてもええかなぁ?
「本当に怖いのに、はやてが弱いところ見せたくなくて強がるのわかってて、悪ふざけしちゃったね。ごめんね」
 目から頬を流れる涙を暖かい手で拭われて、仄かに見分けられる赤い瞳でようやく目の前にいるのがフェイトちゃんやと改めて識別できた。
 耳はそっとその手で押さえられて外の音から離されて、ただ優しい声と鼓動だけが届く。
「雷が収まるまでこうしてるから。そうすれば、怖くないでしょ?」
 耳を塞ぐ手のそばまで口を近づけて、そうやって優しく囁く。
 ひどいやないか。なのはちゃんやないのに、そんな優しくするなんて。
 勘違いが、終わらせられへんやんか。この気持ちは間違いであるはずやのに。存在してはいけないものやのに。
 ただ耳に触れるフェイトちゃんの手の暖かさばかり、存在感が強い。さっき手を捕まれた時は、ここまで暖かくなかったのに。
 雷の音が聞こえない代わりに、うるさいほどの自分の鼓動が残響を起こしてるみたいや。
 もう笑ってないフェイトちゃんのまっすぐな表情が、ただこの胸の隠してる気持ちを捕らえてるみたいで、落ち着かない。

 あなたのその優しさが、月光みたいに眩しい。


「雷、苦手だったなんて知らなかったよ」
 弱味知られるみたいなんが嫌で、これでも隠してたんよ。
「そうなんだ。おびえてるのがなんだかかわいくて、弱味なんて風には思わなかったな」
 フェイトちゃん、それ嫌味やろ?
「そんなつもりじゃないよ。本当にかわいいと思ったんだ」
 そやろか……。それにしては、ずいぶん意地が悪かったように思ったんやけど。
「本当にごめん、もうからかったりしないから」
 ……。
「本当に本当。だから機嫌直してよ」
 次やったら、お仕置きな? わたしのわがままひとつ聞いてもらうから。
「ぐっ……わかった。いいよ、もう雷に怖がってるはやてはからかわないし」
 それやったらさっきのは許してあげるな。
「うん、ありがとう」
 どういたしまして。
「でもそんなに怖いものなんだ。ただの自然現象だと私は考えちゃうんだけど」
 これだから天然は……。ただの自然現象やってのは、頭ではわたしもわかってるんやで?
「頭でわかっていても、気持ちで納得はしてない……ってこと?」
 そういうことです。
「……あのさ、はやて?」
 なに?
「もしかして、私が魔法使う時も怖かったりする?」
 ……。
「私の魔法、雷属性だから普通の雷みたいに光ったり音も鳴るけど」
 ……。
「……図星?」
 ……自然の雷ほどやない。
「そうなんだ」
 フェイトちゃんのは、大体発動のタイミングがわかるからある程度心の準備できるし。
「じゃあ、はやてがいる時にいきなり魔法使うのはしないね」
 ……うん、まぁそうしてもらえると助かるわ。
「ふふっ、はやてがいる時は魔法戦しないようにしないとね」
 なんでそんな楽しそうなん?
「別にちゃかしてるとかそういうわけじゃなくってね、戦い方にもいろいろあると思うんだけど、やっぱり私たち魔導士は魔法戦を求められるじゃない?」
 そら、フェイトちゃんみたいに高ランクやったら尚更やな。
「けど私の魔法は広域攻撃が多いし、今後様々な事件を担当する中で、魔法以外の解決法も身につけないといけないなって思ってるんだ」
 確かに、何の罪もない、事件に巻き込まれてもない民間人を攻撃するわけにもいかんしな。
「ひどいよはやて、私がそういうことしそうだと思ってるの?」
 物のたとえやんか。
「……ならいいけど。魔法を使うにしてももっと小規模の魔法とか、バルディッシュを使うとか、色々やりようはあって、魔法を使わないようにもすべきなんだろうなって思ってるんだけど、やっぱりいざ事件となったらどうしても魔法に頼っちゃう場面が多くて」
 一番手っ取り早いのは確かやもんな。
「だから、はやてがその抑止力になってくれるかなって思ったらね」
 うん。
「本当に必要な時以外は魔法は絶対使わないだろうなって、なんだか頼もしくなっちゃって」
 なにそれ。わたしはどんだけフェイトちゃんにとって恐怖の対象なんよ。
「違うよー。恐怖じゃなくて、頼もしい、んだよ」
 どう言いつくろっても、怖がられてるのを隠そうとしてるようにしか聞こえへんのやけど?
「そんなことないのに。はやてが疑り深いんじゃない?」
 そうかぁ? フェイトちゃんがごまかしてるっていうのが、しっくりくると思うで。
「ひどいなぁ……って、あ」
 ん? どないしたん?

 と、耳にあてられていたフェイトちゃんの手が離されて、外の世界が自分と繋がる。
「雷、やんでた」
 フェイトちゃんの声が、いつも通りに聞こえる。
 その言葉に従って耳を澄ませてみたけど、確かにわたしの恐怖の対象である地響きみたいな音はしてない。
 代わりに雷の音でかき消されていた、雨音が届くようになっていた。
「ほんまや。はぁ、ようやっとか」
「でも、鳴り出してから10分くらいだよ」
 言いながら、フェイトちゃんが部屋の中にある壁掛け時計を見る。
 つられてわたしも見るけれど、雷が鳴り出した時間を覚えていないから意味はなかった。
「えー、もっと長い気がしたで?」
「それははやてが苦手だからでしょ。時計は正直です」
 澄ました表情で言い切るフェイトちゃんは、さっきまでの様子とはちょっと違う、いつものフェイトちゃんの声やった。
 さっきのは、少しでも怖がらんくていいように、優しく喋っててくれたんやろか?
「さて、ノート写さないと」
「あぁ、堪忍な。そういえばノート写しが残ってたんやったっけ」
 そういえば、フェイトちゃんはアリサちゃんのノートを写しがてら、宿題を教えあうという理由で我が家に来てたんだっけ。
 雷でさっぱり忘れてた。
「いいよ、かわいいはやてが見れたから」
 じろりとわたしがフェイトちゃんを見ると、フェイトちゃんはあわてたように首を左右に振った。
「……今のは一応勘弁したるな」
「ありがとう」
 フェイトちゃんは気をつけへんと、うっかりアリサちゃんとかなのはちゃんに口滑らしかねへんな。
 すずかちゃんとなのはちゃんならええんやけど、アリサちゃんに知られてもうたら思いっきり笑われてしまう気がする。ちゃんと目を光らせとかんとあかんな。


 何事もなかったかのように、ノートの書き取りを再開するフェイトちゃんの前で、わたしはぼんやりしていた。
 雷で調子を狂わされて、もうすっかりわたしは自分の宿題をやる気分じゃなくなっていた。
 対するフェイトちゃんは真剣な眼差しでノートを――今は古文を――書き取っている。
 フェイトちゃんの様子を観察していたら、先日たまたま読んだ本に書かれていたことを思い出した。
「そういやフェイトちゃん、これってわかる?」
 ふと思いつき、自分のノートにある単語を書いて、フェイトちゃんの方に向けて回す。
「ん? これは単語?」
 ノートを取っていたフェイトちゃんだけど、話しかけられれば律儀に反応を返してくれる。
 向けられたノートの真ん中らへん、私が書いた単語に目を向ける。
「そう、なんて読むでしょう?」
 言われて、古文が苦手なフェイトちゃんは眉を眉間に寄せて八の字にする。
 別に古文と直接の関係はないんやけどな。日本語が苦手やからしょうがないかもしれんけど、そんなに難しくもないはず。
「えっと……『かみなる?』」
「惜しい。送り仮名つけといた方が良かったかな」
 私は反対側から、フェイトちゃんに読めるようにいびつな線で送り仮名を書き足す。
「あ、『かみなり』」
「そう、これでも『かみなり』って読むんよ」
 わたしがノートに書いたのは、『神鳴』。送り仮名をつけて、『神鳴り』。
「日本では昔から、雷は神さまが起こしてることやーって思われとったんよ。自然現象や、ゆうたって昔はそんなことわからんかったからな。神さまが怒ってるんやーとかって、雷が鳴り出したらみんな祈りを捧げたりしとったらしいよ」
「へぇー、そうなんだ。そう考えると、雷って案外怖いのかな」
 フェイトちゃんにとって今の話はとても新鮮だったようで、真剣に聞き入っていた。
「そら怖いわ。今みたいに科学が発達してない時代に、あんな光と音だけ見聞きさせられたら何事やって思うやろ」
「あ、それもそうか。普段の生活であんな眩しい光とうるさい音がしたら、それだけで大事だよね」
 言われて、フェイトちゃんも納得したようだ。自然現象だ、なんて言えるのも雷の正体が明らかになっているから。
「そうゆうこと。そんで、神さまの仕業だろう、って思ったんやろうな。一番それが理由として納得がいった、ってとこなんやろうか」
「自分たちじゃわからない大きな出来事は、全部神様の仕業なんだ……」
 きっと科学技術と魔法技術が発達したミッドチルダ出身のフェイトちゃんからすれば、そういう神様を信じる昔の日本人の考え方っていうのはとても不思議なものなのかもしれない。だってなんだか目がきらきら輝いてる。
 神様と言えば宗教だけど、ミッドチルダの宗教といえば聖王教会。でも聖王は神様じゃなくて、過去に実在した人物やと言われてるし。
 どこの誰ともわからない、みんなの心と絵だけでしか存在しない神様、なんてものは、ミッドチルダではあり得ない発想なんかもしれへん。
 だから、なんとなく思いついたんや。ミッドチルダ生まれの、そんな存在があっても面白いんちゃうかって。
「せやから、雷を起こせるフェイトちゃんは、カミサマかもしれへんね」
「えっ!? 私が?」
 わたしの呟きに、フェイトちゃんが驚きで大きな動作で机から身を起こした。
「確かに雷は起こせるけど……はやてを怖がらせちゃうから、神様でなくていいよ」
「言ってくれるなぁ」
 意図しない反撃に、わたしは苦笑した。苦笑するしかなかった。
 ここでそんな言葉、使わんでいいのに。そんな気、使わんでええのに。
「あ、ちゃかしてるわけじゃないからね?」
 わたしの表情に不穏なものでも感じ取ったのか、フェイトちゃんがあわてて釘を刺す。
「はいはい、わかってるってば」
 フェイトちゃんも本気でわたしがちゃかしたと判断したとは思っていなかったんだろう。
 くすくすと、すぐにいつもの優しい笑顔を見せてくれた。

 あぁ、胸が雷に焦がされてシビれてる。


―    §    ―


 月じゃなくて、カミサマなら。
 もっと届かないんやろう。
 月じゃなくて、カミサマなら。
 この愚かな人の手が届かないのが、当たり前。
 強い光に焼き焦がされてしまう。
 月よりも遠く、不確かな存在は愚かな人の身には近づくことさえできない。

 ほら、『カミサマをちょうだい』なんて、どんな物を知らない子供だって言わない。

 けれど、まったくの間違いでもなかったな。
 鮮やかさは、その力強さは違うやろうけど、辺りを照らすその光はやっぱりあなたのものやった。
 わたしに道を見せるのは、励まし、勇気をくれるんはあなたの光やった。

 相手があなたであることだけは、間違いやなかったんかもしれへんね。あなた以外の人ならこんな気持ちは持たなかった。
 この気持ちの存在が間違いやったとしても、そこだけは間違いやなかったと思っててええかな?


 だから後は。

 いつになれば、この気持ちを諦められるんやろう。
 いつになれば、この気持ちを終わらせられるんやろう。

 カミサマには言えない秘密。カミサマには言えない言葉。
好きなんよ。」

 カミサマをどう思ってるかなんて、罰当たりすぎて言えない。

END

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